取材レポート

帝塚山小学校

70年を超えて受け継がれる、本物に触れて学ぶ教育

コロナ禍の影響を大きく受けた学校現場。2023年度にはようやくその影響も低減し、様々な行事が実施されるなど、従来の様子を取り戻しました。帝塚山小学校でも、コロナ禍以前に実施していた行事類はほぼ復活し、異学年交流も再開できました。しかし、同校の名物行事であった夏合宿での遠泳を取りやめるなど、大きく変わった部分もあります。今回の取材では、今の帝塚山小学校の教育について、校長の野村至弘先生に語っていただきました。

帝塚山小学校校長 野村至弘先生のお話
家庭ではできない体験を詰め込んだ夏合宿
水の活用法の昔と今を対比できる新体験を導入
水のつながりから自然の成り立ちを学ぶ6年間
自ら課題を見つけ調べて行くことが学びの基本
プロが指導する運動系講座が揃う、充実のアフタースクール
卒業生がスタッフとして関わり、より信頼度がアップ
学校でのお兄ちゃん・お姉ちゃんを得られる縦割り活動
まとめ
校長 野村至弘先生

校長 野村至弘先生

帝塚山小学校 校長 野村至弘先生のお話

家庭ではできない体験を詰め込んだ夏合宿

本物に触れる体験を重視する帝塚山小学校の教育。夏合宿は、その教育を体現する最も大きい行事です。長年教員として子どもたちが夏合宿を通して成長する様子を見てきた野村校長は次のように述べます。

「教室での色々な学習も大事ですが、外へ出て本物に触れることは、大人が考える以上に子ども達にとって大きな刺激となります。今まで実際に見たことがないものを見ている子どもたちの目は、本当に輝いているんですよ。このような経験が学びを自分のものにするのだと感じてきました」。

そんな大きな成長を与えてくれる夏合宿ですが、コロナ禍があったことで、内容を大きく変更せざるを得ませんでした。特に4・5年生の臨海学舎では同校の名物でもあった遠泳を廃止し、海水浴体験へと変更。その代わり、4年生は泉州での漁業体験や磯遊び、5年生は三重県志摩市での天然磯の観察や離島の暮らし体験といった海が持つ社会科的側面を学ぶ活動を取り入れたそうです。

野村校長は「4年生では産業、5年生では自然・環境に着目し、活動内容を変更しました。泉州や志摩には行かれたことのあるご家庭も多いでしょうが、学校だからこそ経験できるプログラムを選んで組んでいます。特に5年生の活動ではチャーターした漁船に分乗して、無人島に渡ります。人の手がまったく加わっていない島なので、自然そのままの磯を観察することができるんです。様々な種類のカニや貝、ヤドカリ、ウミウシなどたくさんの生き物がいました。色々な生き物を育む磯のすごさを、子どもたちは改めて学んでくれたのではないかと思います」と述べます。
4年生 夏合宿

4年生 夏合宿

5年生 夏合宿

5年生 夏合宿

水の活用法の昔と今を対比できる新体験を導入

琵琶湖で開催される3年生の夏合宿でも、2023年度から新たに針江地区の『かばた』見学が、竹やぶでの活動に代わって取り入れられました。かばたとは、山からの湧き水を生活用水として利用するシステムのこと。水を効率的に利用するため、地区全体に水路が張り巡らされ、水路には鯉などの魚が飼われているそうです。

「各家庭に水が湧き出ています。それを飲料や炊事などに使い、使った後の水は水路に流します。食器を洗う時に出たご飯粒などの食べ残しは、水路にいる鯉が食べてくれるんです。水を無駄なく、美しく保つシステムが確立していました。その様子を実際に見せてもらって、こういう暮らしもあるんだと子どもたちはビックリしていましたね。また水路にも入らせていただき、湧き水の冷たさを、身を持って感じられたのも良かったです」(野村校長)。

このように伝統的な水の活用法を学ぶ一方、『BIWAKO AQUA PONICS』ではビニールハウス内でトマトを水だけで育てるアクアポニックス農法も見学しました。「畑というより工場のような雰囲気でしたね。ここで使われていた水も栄養豊富な湧き水。水の最先端の活用法と昔ながらの活用法を対比でき、非常に面白かったですね」と野村校長は笑顔で話します。
3年生 夏合宿

3年生 夏合宿

3年生 夏合宿

3年生 夏合宿

水のつながりから自然の成り立ちを学ぶ6年間

帝塚山小学校の夏合宿の活動エリアは、長年に渡り、1・2年生は川、3年生は湖、4・5年生は海、6年生は高い山と決められています。これは、水の流れを順序立てて学ぶことで自然の成り立ちを感じてもらいたいと考えるていからだと野村先生。

「夏合宿は川からスタートします。低学年の子どもたちにとって、川に入ることはとても新鮮な経験。川の水はどこから来てどこに流れていくのかという素朴な疑問を子どもたちは持ちます。その答えのひとつとなるのが湖。琵琶湖は関西における水の起点のひとつです。また川の水は海へと流れていきます。4年生の夏合宿で漁業にたずさわる方に話を伺った時、山のミネラルが豊富に含まれた水が大阪湾に流れ込んでいるから魚がたくさん獲れる、海だけが魚を育てるんじゃないと盛んに話してくださいました。6年間、水のつながりを追うことで、自然の成り立ちを体感し、その大切さを感じてくれたら嬉しいですね」(野村校長)。
1・2年生 夏合宿

1・2年生 夏合宿

6年生 夏合宿

6年生 夏合宿

自ら課題を見つけ調べて行くことが学びの基本

夏合宿での学びをはじめ、子どもたちの日々の学びをまとめるのに帝塚山小学校で使うのが「帝塚山ノート」です。“子どもたちが進んで書きたくなる”をテーマに、書きやすくするための工夫をたくさん詰め込んで作った同校独自のノートです。

「本校には日常生活から得た学びや疑問を発表する『おしらせ』という伝統的な取り組みがあります。その『おしらせ』の流れを汲むのが帝塚山ノート。子どもたちは自ら色んなテーマを見つけて、その内容を調べてノートにまとめます。人物シリーズと題して歴史上の人物ばかりを調べる子もいますし、夏合宿明けは4年生であれば漁業にまつわる内容が増えたりもします。皆楽しんで取り組んでいるようです。特に2021年度に帝塚山ノートを導入してからは、以前より積極的に取り組む子が増えましたね」(野村校長)

提出されたノートの中でも皆で共有したいと担任が感じたものは、教室内にコピーを掲示するとのこと。他の子どもたちは「こういうまとめ方があるんだな」「こんなテーマも面白いな」と感じ、それがまたノートへ自ら向かう姿勢やまとめる技術の向上にもつながっていきます。野村校長は「与えられたものだけでなく、自分で課題を見つけて、それを調べていくことがやはり学びの一番の基本です。このノートを使って、自学自習の姿勢をこれからも育んで行きます」と語ります。

プロが指導する運動系講座が揃う、充実のアフタースクール

共働き家庭が増え、アフタースクールを開設する私立小学校が増えてきました。帝塚山小学校でも2017年度からアフタースクールを設置し、多くの子どもたちが利用しています。同校のアフタースクールの特長はお預かりだけでなく、様々な講座も開講している点にあります。

「せっかくの時間を有効利用してもらおうと、学習や運動などの講座を設定しています。親御さんの要望に応え、2024年度の開講予定講座は全12講座まで増えました。12講座以外に学年に応じた学習講座も用意しています」(野村校長)。

運動系の講座はサッカー・バスケットボール・ダンス・体操の4つ。いずれも学校の体育館などで行われ、帝塚山小学校の児童のみが参加できる講座となっています。「バスケットボールは日本プロバスケットリーグ(Bリーグ)のバンビシャス奈良、サッカーは生駒を拠点に活動するクラブ・アスペガス生駒から専門スタッフが派遣されてきています。プロの指導が受けられると評判です」と野村校長。

また、女の子に人気の講座がダンス。3月には同校体育館で発表会も予定しているそうです。野村校長は「ダンスは3月の発表会に向けて本当にがんばっていますね。どの講座も練習風景を動画で撮影し配信しています。その動画を見るのを毎週楽しみにしている保護者も多いと聞いています。」と笑みを浮かべます。

長期休暇中は、通常の講座に加え、理科実験やJAXAの方を招いてのロケット講座などの様々なスポット講座も開講し、多くの子どもたちで賑わっているそうです。

卒業生がスタッフとして関わり、より信頼度がアップ

保護者のアフタースクールへの関心は高く、学校説明会などでも非常に多くの質問を寄せられるとのこと。中でも安全面に関する質問が多いといいます。野村校長は次のようにアフタースクールの安全対策を説明します。

「駅向こうのビルにあるお預かりの部屋まではアフタースクールのスタッフが必ず付き添います。校内で実施する講座後にお預かりを利用する場合は、スタッフ付き添いのもと移動しますのでご安心ください。お預かりの部屋の入退室時にはメールで連絡するシステムを導入。通常のお預かり時間内であれば、子どもだけで帰宅可能ですので、駅までスタッフがお送りし、電車に乗るまで見届けています」。

お預かりのみ、講座のみの利用もでき、利用申し込みや欠席の連絡は前日18時までにLINEで行えば対応してもらえると、忙しい子育て家庭にとって非常に使いやすい体制が整えられています。講座の内容が充実しているのも、開設から7年、保護者の要望に応えてきた結果。

野村校長は「以前より卒業生のお母様方がアフタースクールのスタッフとして参加してくれていましたが、最近では大学生となった卒業生自身が参加してくれるようになりました。私も嬉しいですし、またそれが保護者の安心感につながるのではないかと思います」と話します。

学校でのお兄ちゃん・お姉ちゃんを得られる縦割り活動

コロナ禍が収束し、帝塚山小学校ではほぼ以前通りの教育活動を行えるようになりました。その中で、改めて縦割り活動の意義について実感したと野村校長は指摘します。

「本校では1年と6年がペアを組んで活動することが多いんです。入学式で手をつないで入場することから始まり、全校遠足などの縦割り活動行事もいくつか設定しています。もうすぐ卒業式ですが、未だに6年生が毎朝1年生の教室に顔を見せているようです。6年生が1年生をとてもかわいがってくれて、今年は1年生が学校に馴染むのがすごく早かった。異学年交流の大切さを実感した1年となりましたね」。

6年生は、1年生にとっての学校でのお兄ちゃん・お姉ちゃんのような存在だと野村校長は続けます。

「私学なので遠くから通ってくる子も多くいます。特に1年生は不安がいっぱい。学校に来てうまくいけば良いけれど、1年生同士のトラブルもあります。そんな時にちょっと味方になってくれる、話を聞いてくれる存在がいる事実が安心感につながっているんだろうなと感じます」。

まとめ

2022年に創立70周年を迎えた帝塚山小学校。先日野村校長のもとに1本の電話が掛かってきたそうです。電話の主は1964年の卒業生。40年ぶりの同窓会をするに当たって、学校を見学させてもらえないかという内容だったといいます。

「卒業生の方に本校での思い出をお伺いすると、とにかく色んな所に連れて行ってもらったと。遠足などで外に出て勉強することが多かったとおっしゃっておられました。本校の本物に触れて学ぶ教育は、この頃既に確立し、脈々と受け継がれてきたのだなと感銘を受けました」(野村校長)。

この野村校長の話から、70歳を超えても思い出に残る小学校での楽しい学びと、また会いたいと思える仲間たちを得られる環境が、同校にはあるのだと感じました。70年以上にわたり積み重ねられ、多くの人の支持を得てきた同校の教育や環境を、ぜひ学校説明会などで確認してみてはいかがでしょうか。

取材協力

帝塚山小学校

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